平成29年12月20日に「民法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が公布され、令和2年4月1日に民法が改正されました。こちらのページでは令和2年4月1日に施行された民法改正のポイントについてご説明します。
配偶者の居住への要望として、遺産分割が終了するまでの間だけでも住みたいというものがあります。配偶者短期居住権は、遺産分割に関し話が付くまでの間、居住建物に無償で居住することができる権利のことです。
遺産分割に関し話が付くまでの間とは、具体的には下記のいずれか遅い日までとなります。なお、配偶者短期居住権には財産性が認められないため、相続税の課税対象とはなりません。
・遺産分割により居住建物の帰属が確定した日
・相続の開始の時から6ケ月を経過した日
配偶者の居住への要望の中には、配偶者短期居住権のような短期的なものではなく、「終の棲家」として、居住し続けることを望むことがあります。そこで、民法改正で配偶者の居住への要望を保護するため、配偶者居住権が新設されました。配偶者居住権は相続税の計算上、財産評価する必要があります。
ただし、二次相続時には配偶者居住権に係る相続税は課税されません。令和2年4月1日以後に開始する相続により取得する財産に係る相続税について適用されます。配偶者居住権は譲渡所得税、贈与税の対象となりますが、配偶者が亡くなった時は配偶者居住権は評価しません。
預貯金については、従前からの判例では、預貯金は可分債権として、相続開始と同時に各相続人に当然に相続分に応じて分割されると明示されていました。
しかし、平成28年12月19日の最高裁大法廷で「預貯金一般の性格等を踏まえつつ以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」旨判示し、預貯金債権が遺産分割の対象に含まれるとの判断を示しました。
平成28年12月19日の最高裁大法廷を前提にすると、預貯金を葬式費用等の費用の支払いのため払い戻す必要があるにもかかわらず、相続人全員の同意を得ないと遺産分割前に払い戻すことができなくなるという不都合が生じます。
そこで、民法改正で遺産分割前に預貯金の引き出しができなくなる不都合を解決するため、仮払い制度等の創設と要件を明確化しました。具体的には下記の2つの方法となります。
・家庭裁判所の判断を経ないで、預貯金の一部払戻しを認める方法
・家事事件手続法の保全処分の要件の緩和
一部払戻は3分の1について、自己の相続分について金融機関に対して仮払いを請求できます(相続人が子2人の場合は6分の1)。ただし、1金融機関ごとに150万円を限度とします。
遺産分割前に遺産を処分した場合であっても、相続人全員の同意(遺産を処分した相続人については同意不要)により、その遺産が遺産分割時に存在していたとみなすことができます。
一部分割については、規定がなく明確ではなかったため、民法改正で、一部分割につき、原則として許容することと明確化されました。
婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他の一方に対し、自宅の全部又は一部を遺贈又は贈与したときは、持戻免除の意思表示があったものと推定することになりました。つまり、特別受益の計算をする際に、持戻免除の意思表示があったものと推定することで、配偶者の具体的相続分を従前以上に拡大されました。
自筆証書遺言は、要式性、自署性を厳格に要求しており、簡便さという長所が失われています。そこで、民法改正では、自筆証書遺言における過剰規制を緩和し、利用の促進を図るため、遺言書を遺言事項と財産目録に分け、財産目録については、ワープロ書き等でも良いことになりました。ただし、ワープロ書き等をした財産目録には各頁ごとに、署名・捺印が必要です。
・平成31年1月13日以降に作成した自筆証書遺言から適用
・令和2年7月10日からは自筆証書遺言の保管制度が創設
公正証書遺言は特に管轄は決まっていませんが、遺言書保管制度は遺言者の住所地又は本籍地を管轄する法務局に出頭しなければなりません。また、公正証書と異なり、公証人に自宅に来てもらう等はできず遺言者自らが法務局に出頭しなければ利用できません。遺言書保管制度を利用した遺言書については、家庭裁判所の検認が不要になります。
遺贈の担保責任について、「遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意志に従う。」旨規定されました。
遺言執行者がいる場合の遺贈の履行の権限などが明文化されました。つまり従来は通知義務はありませんでしたが、遺言執行者は、その任務を開始したときは遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならなくなりました。遺言執行者の通知義務についても明文化されました。
遺留分侵害額の請求に名称が変わり、金銭債権化しました。従来は不動産の持ち分を分与して共有状態となるケースがありましたが、法改正後は金銭債権の請求となります。そのため、従来は不動産を分与しても含み益に譲渡所得課税はされませんでしたが、法改正後は本来は金銭で支払うべきところ、不動産を充てることでその支払債務を解消したという形となりますので、代物弁済として含み益に対して譲渡所得課税されることになります。
この改正は令和元年7月1日以後に開始する相続から適用されます。また、遺留分の算定方法については、下記の算式の通り規程は変わりませんが、「贈与された財産の価格」に変更がありました。
[被相続人が死亡時に有した財産の額]+[贈与された財産の価格]-[相続債務の全額]
・相続人以外の者に対する1年内の贈与
・相続人に対する特別受益(10年以内)
※従来は期間制限がなく10年超前のものでも加算されまた。
「相続させる」旨の遺言の場合でも対抗要件を具備しなければ、法定相続分を超える権利については第三者に対抗できなくなりました。つまり相続登記等が必要になります。(従来は登記をしなくても対抗できました)
債券の承継に対する対抗要件は、債務者に通知すれば対抗要件を具備したものと扱われます。(本来は相続人全員から通知するべきですが、相続人全員が通知に協力してくれるとは限らないことから新たにルールが規定されました)
債務は基本的には法定相続分で負担することになりますが、債権が相続人の1人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、1人が負担することができるよう明文化されました。
被相続人の相続人以外の親族(特別寄与者)が被相続人の財産の維持又は増加に一定の貢献をした場合につき、特別寄与者が、一定の要件の下、「特別寄与料」の請求をできるものとされました。例えば、被相続人の長男の妻が多大な貢献をしたような場合でも、法定相続人ではないため、その妻の貢献を反映されることは困難でした。
民法改正で、特別寄与者の範囲は、親族とされ、法定相続人ではない親族にも、一定の経済的リターンが与えられるようになりました。なお、特別寄与料は遺贈とみなして相続税の課税対象となります(2割加算の対象)。特別寄与料を支払った者は課税価格からその額を債務控除できます。
※相続税の申告期限後に確定した場合は更正の請求をします。
成年年齢が20歳から18歳に引き下げられることから、未成年者控除、相続時精算課税制度、贈与税の税率などの20歳は18歳に引き下げられます。令和4年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用されます。
・個人を保証人とする連帯保証契約は極度額を書面で定めなければ無効
・賃借人が保証人に対し情報提供金を負う(連帯保証人がリスクを正しく理解するため)
・賃貸人は保証人に対し賃借人の履行状況の説明義務を負う(この情報提供は守秘義務免除。ただし管理会社は守秘義務を免除されない)
・敷金の定義と返還時期を規程(従来は敷金の規定はなかった。民法の解釈と判例で対処)
・敷金の定義は担保目的の金銭、賃貸借物件の返還を受けた時、適法に譲り渡した時に返還。
・賃貸物の一部滅失等による賃料減額(減額請求ではなく、当然減額と規定)
・賃借人による修繕権の明文化と費用負担(賃貸人が負担)
・賃貸借終了時の賃借人の収去義務(収去権から収去義務へ、つまり賃借人が附属させた物は持ち去ることができる収去権だったものが、取り去ることが義務と示されました)
・賃借人の原状回復義務(通常損耗については原状回復義務がないことを明記、ただし、特約で賃借人の負担とすることは可能だが、原状回復義務を負う範囲を契約書に明記することが必要)
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