相続時精算課税制度を利用して土地を贈与した場合、小規模宅地等の特例を適用することはできるのでしょうか?
相続税対策として生前贈与を検討している方は、制度の違いを理解しておくことが重要です。
こちらのページでは相続時精算課税制度と小規模宅地等の特例について解説します。
小規模宅地等の特例とは一定の要件を満たすと土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。結論から言うと相続時精算課税制度を利用して贈与した土地に対して小規模宅地等の特例を適用することはできません。
小規模宅地等の特例を適用するには、土地を相続又は遺贈により取得している必要があります。
※遺贈とは遺言書によって財産を受け取ることです。
相続時精算課税制度を利用して土地を贈与した場合、相続又は遺贈で取得したのではなく、贈与によって土地を取得したことになりますので、小規模宅地等の特例の対象外となります。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子供や孫に対して贈与する際に選択できる制度です。相続時精算課税制度を利用して贈与をおこなった場合、2,500万円まで贈与税が課税されません。ただし、相続時に贈与額を相続財産に加算して相続税を計算します。
なお、令和6年1月1日以降の贈与により取得する財産については、暦年課税の基礎控除とは別枠で、毎年110万円まで課税されなくなります。また、相続時精算課税制度を利用した場合の基礎控除110万円については、相続時に持ち戻し計算がされません。(暦年課税の場合には、基礎控除110万円以下であっても7年以内の贈与は相続時に持ち戻し計算されるため、大きなメリットとなります。)
そのため、令和6年以降は相続時精算課税制度を利用して生前贈与をする方が増えています。
相続時精算課税制度について詳しく知りたい方は「相続時精算課税制度と暦年課税の違い|メリット・デメリットを解説」をご覧ください。
小規模宅地等の特例とは一定の要件を満たすと土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。
小規模宅地等の特例の対象となる土地は、居住用である土地(特定居住用宅地等)・事業用である土地(個人は特定事業用宅地等、会社は特定同族会社事業用宅地等)・貸付事業用である土地(貸付事業用宅地等)の3種類です。
小規模宅地等の特例について詳しく知りたい方は「小規模宅地等の特例の要件【改正版】|土地の相続税評価を最大8割減」をご覧ください。
小規模宅地等の特例は、「相続又は遺贈」により取得した土地に適用される制度です。
一方、相続時精算課税制度は、財産の生前贈与に関する制度であり、財産の取得原因が相続ではなく贈与となります。
そのため、相続時精算課税制度を利用して生前贈与した土地については、小規模宅地等の特例を適用することができません。
相続時精算課税制度を利用した場合、相続時に合算され、相続税の課税対象になることから、小規模宅地等の特例が使えるのでは?と誤解されやすくなっていますが、小規模宅地等の特例の要件が「相続又は遺贈により取得した土地」であるため、相続時精算課税制度を利用して贈与を受けた土地は要件を満たさないことになります。
適用関係をまとめると以下の通りとなります。
| 贈与で土地を取得(暦年課税) | 小規模宅地等の特例は適用できない |
| 贈与で土地を取得(相続時精算課税) | 小規模宅地等の特例は適用できない |
| 相続又は遺贈で土地を取得 | 小規模宅地等の特例は要件を満たせば適用できる |
小規模宅地等の特例を適用するために相続で取得する場合と生前贈与を受けて相続時精算課税制度を適用する場合、どちらが有利かはケースによりますが、基本的には相続で取得して小規模宅地等の特例を適用した方が有利となります。
理由としては、相続時精算課税制度の特例は年間110万円の基礎控除は相続時に加算されませんが、110万円を超える金額については、期間に関係なく相続時に持ち戻し計算されます。
そのため、相続時精算課税制度を利用した場合、特別控除2,500万円までは贈与時に贈与税が課税されませんが、相続時に課税されるため、課税の繰り延べとなります。
また、土地の贈与は相続と比較すると登録免許税の負担や不動産取得税の負担が増えるため、節税対策としては利用しにくい側面があります。
それに対して、小規模宅地等の特例は50%又は80%を評価額から控除されるため、明確に相続税の負担が下がります。
基本的には小規模宅地等の特例を適用した方が良いでしょう。
ただし、収益不動産の賃料収入を早期に子に移転させたい場合や、土地の評価額が将来、大幅に上がる見込みがある等の場合には、小規模宅地等の特例が適用できないとしても、相続時精算課税制度を利用して贈与した方が良いケースもあります。
例えば、土地の評価額については、税制改正(通達改正)により評価方法が変更となる場合には、改正前と後では大きく評価額が変わるケースもあります。
判断が難しい場合には、相続税専門の税理士に相談をしてから判断することをお勧めします。
相続時精算課税制度は節税対策や財産の早期移転の目的として利用されることがありますが、制度の内容を十分理解しないまま利用すると、かえって不利になるケースもあります。
ここでは、実際にあった失敗例を紹介します。
①生前贈与をすれば節税になると思い込んでいた
とりあえず生前贈与をすれば節税になると考えて土地の贈与を実行してしまった後にご相談を受けたケースがあります。
こちらのケースでは年間の基礎控除が110万円であることなども考慮せずに、とりあえず贈与をしていました。
生前贈与について詳しく知りたい方は「生前贈与とは?|贈与税の仕組みと相続対策のポイントを解説」をご覧ください。
暦年課税では贈与税の負担が大きくなりすぎることから、相続時精算課税制度の特別控除2,500万円を利用を提案して、目先の贈与税負担は回避することができましたが、小規模宅地等の特例が適用できない状態になってしまいました。
事前に専門家に相談をしておけば回避できた事例となります。
②小規模宅地等の特例が適用できなくなることを知らなかった
相続時精算課税制度を利用した場合、相続時に相続税の対象となるため、小規模宅地等の特例も適用できるはず。と勘違いしてしまう相談者がいます。
例えば、子ども達の関係性が悪く、相続の時に争いになるリスクが高い場合、争いでスムーズに土地の相続ができないリスクを回避するため、同居している子どもに自宅だけでも生前贈与をしたいといった相談を受けることがあります。
こちらのケースの場合は同居しているため、相続で取得をすれば小規模宅地等の特例の適用要件を満たしていますが、生前贈与をしてしまうと、小規模宅地等の特例が使えなくなってしまいます。
そのため、代替案として遺言書の作成で自宅を同居している子どもに遺せるようにアドバイスをさせていただきまた。
遺留分の問題等で争いは回避できないかもしれませんが、最低限、自宅は同居している子どもに遺すことができますし、小規模宅地等の特例も適用ができます。
なお、争いのリスクが高いのに遺言書を作成しなかった場合、相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらず、未分割で申告をするリスクが高くなります。
未分割で申告をする場合には、小規模宅地等の特例は適用できませんので、相続税の負担が大きくなってしまいます。(後日、遺産分割確定時に小規模宅地等の特例を適用して相続税の還付を受けることはできますが、未分割の状態で多額の相続税を自己資金で納税をするのは大きな負担となってしまいます)
【A1】自宅の一部だけ贈与した場合、贈与をした持ち分については、贈与税の課税対象となります。
相続時精算課税制度を利用した場合、贈与税の負担を抑えることができますが、相続時に相続税の課税対象となります。
この場合「贈与済みの持ち分で相続時精算課税制度として課税対象」になるものと「相続する持分で課税対象」になるものに分かれます。
相続時精算課税制度として課税対象になるものは、相続又は遺贈による取得ではないため、小規模宅地等の特例は使えません。
相続する持分については、相続又は遺贈による取得になるため、他の小規模宅地等の特例の適用要件を満たす場合には、小規模宅地等の特例が適用できます。
【A2】1つの土地について相続時精算課税制度と小規模宅地等の特例を利用することはできませんが、複数の土地がある場合には、上手く使い分けることは可能です。
小規模宅地等の特例には以下の限度面積要件があります。
特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等…400㎡
特定居住用宅地等…330㎡
貸付事業用宅地等…200㎡
小規模宅地等の特例や限度面積について詳しく知りたい方は「小規模宅地等の特例の要件【改正版】|土地の相続税評価を減額」をご覧ください。
そのため、小規模宅地等の特例の適用要件を満たす土地が複数ある場合でも、限度面積までしか適用することができませんので、全ての土地に適用できるとは限りません。
このような場合には、小規模宅地等の特例を適用する予定のない収益物件を子どもに贈与して、相続時精算課税制度を利用し、小規模宅地等の特例を適用した方が良い物件については相続で取得することで、上手く良いとこどりできるケースがあります。
収益物件を贈与することで、親の相続財産が増えてしまうことも防ぐことができます。
相続時精算課税制度を利用して土地を贈与する場合、小規模宅地等の特例が適用されないので注意が必要です。効果的な相続税対策をおこなうには、相続に関するあらゆる規定を十分に理解している必要があるでしょう。
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