一部の相続人だけが多額の生前贈与や遺贈を受けていた場合、他の相続人との間に不公平感が生じます。このような場合に相続人の間の公平を図るための制度を「特別受益」と言います。こちらのページでは特別受益の対象・計算方法・時効について解説します。一部の相続人だけが多額の遺産を受け取っている場合はご参考にしてください。
特別受益とは一部の相続人が故人から受け取った特別な利益のことです。一部の相続人だけが故人から多額の贈与を受けていた場合、そのことを考慮せずに遺産を分配すると他の相続人から不公平に思われかねません。そこで、一部の相続人が受けた贈与を特別受益として相続財産に含めて遺産を分配します。特別受益の対象を5つご紹介します。
遺言書を作成すると渡したい人に財産を譲ることができます。遺言書によって財産を渡すことを遺贈と言います。遺贈によって受け取った財産は全ての特別受益の対象となります。遺言書の作成方法や文例について詳しく知りたい方は「遺言書の書き方・効力|有効な遺言書の作成方法【文例有】」をご覧ください。
結婚の際の持参金や嫁入り道具など、婚姻のための贈与は特別受益の対象となります。ただし、結納金や結婚式の費用は特別受益に含まれないことが多いです。なぜ結納金や結婚式の費用が特別受益に当たらないかというと、従前は結納金や結婚式の費用を親が負担することが当然と考えられていたからです。時代が変わり、今では本人が負担するケースも増えていますので、結納金や結婚式の費用も特別受益の対象とみなすこともあります。
養子縁組とは血縁関係とは無関係に親子関係を生じさせることができる制度です。養子縁組には二種類あり、普通養子縁組の場合は実親と養親の両方の相続人になることができ、特別養子縁組の場合は養親に対してのみ相続人になることができます。養子縁組に出す際に実親が持参金を贈与することがありますが、この贈与は特別受益の対象です。養子縁組については「【養子縁組で相続税対策】普通養子縁組と特別養子縁組の違い」をご覧ください。
生計の資本としての贈与とは事業を始めるための開業資金、住宅を購入するための住宅資金、居住用の不動産、私立の医科大学の学費、扶養の範囲を超える金銭援助などの贈与のことです。お小遣いなど親族間の扶養的金銭援助を超えないものは特別受益に含まれません。
生命保険金は基本的には特別受益に含まれません。しかし、相続人のうち一人だけが高額な生命保険金を受け取るなど、相続人間の不公平が著しい場合は特別受益の対象となるケースがあります。遺産総額に対する生命保険金の比率、各相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態など、諸般の事情を総合的に考慮して判断されることになります。
特別受益がある場合の相続分の計算方法は次のとおりです。なお、特別受益の財産評価は相続開始時点を基準として評価されます。
(相続財産+特別受益額)×法定相続分-特別受益額=相続分
(相続財産+特別受益額)×法定相続分=相続分
法定相続分とは民法で定められている相続分の目安のことです。故人が遺言書を作成していない場合、相続人全員で遺産の分け方について話し合ってきめるのですが、法定相続分を目安に遺産の分け方を決めます。法定相続分について詳しく知りたい方は「法定相続分とは|どの相続人が遺産をどのくらいもらえるのか」をご覧ください。
相続財産が2,000万円、相続人が妻・長男・二男の3人で、特別受益があった場合の相続分を計算してみましょう。なお、特別受益がない場合、妻の法定相続分は遺産の2分の1ですので2,000万円×2分の1で1,000万円、長男と二男の法定相続分はそれぞれ4分の1ですので2,000万円×4分の1で500万円ずつ受け取ることになります。
相続人 | 法定相続分 | 特別受益を考慮しない場合の相続分 |
---|---|---|
妻 | 1/2 | 1,000万円 |
長男 | 1/4 | 500万円 |
二男 | 1/4 | 500万円 |
長男が私立の医科大学の学費として300万円の援助を受けていたとした場合、300万円の特別受益があったとみなすことができます。このような場合、相続財産2,000万円に特別受益300万円を加算し、相続財産が2,300万円であったと考えます。相続財産が2,300万円であった場合の妻の法定相続分は2,300万円×2分の1で1,150万円、長男と二男の法定相続分は2,300万円×4分の1でそれぞれ575万円となります。
ただし、長男は300万円の特別受益がありますので、長男の相続分は575万円-300万円で275万円となります。したがって、それぞれの相続分は下記の表のとおりです。
相続人 | 特別受益を考慮する場合の相続分 |
---|---|
妻 | 1,150万円 |
長男 | 275万円 |
二男 | 575万円 |
特別受益は相続税の課税対象ではありません。したがって、相続税の計算をする際に特別受益を考慮する必要はありません。ただし、相続開始前3年以内に故人から贈与を受けていた場合、贈与がなかったものとして相続財産に贈与額を加算して相続税を計算します。相続開始前3年以内の贈与を相続財産に加算する規定のことを「生前贈与加算」と言います。
生前贈与加算について詳しく知りたい方は「生前贈与加算とは|相続人以外への贈与は死亡前3年以内でも対象外」をご覧ください。相続税の計算方法について詳しく知りたい方は「【相続税の計算方法】相続専門の税理士がわかりやすく解説」をご覧ください。
また、下記は相続税の計算方法について解説している動画です。文章よりも動画の方が理解しやすい方はこちらの動画をご参考にしていただきますと幸いです。
相続人が特別受益を受けていた場合であっても、特別受益を考慮して相続分を計算しないケースもあります。特別受益を考慮しないケースを5つご紹介します。
相続人が一人しかいないのであれば、特別受益を考慮して相続分を計算する必要はありません。
相続放棄とは遺産を相続する権利を放棄することです。特別受益を受けた人が相続放棄をした場合、最初から相続人でなかったとみなされますので、特別受益を考慮して相続分を計算する必要はありません。相続放棄のメリットやデメリットについて詳しく知りたい方は「相続放棄のメリット・デメリット|親の借金を相続しない方法」をご覧ください。
故人が多額の借金を抱えていた場合、相続財産がマイナスとなります。相続人は故人の代わりに借金を弁済する必要があります。相続人の中に特別受益を受けた人がいたとしても、相続財産がマイナスの場合は特別受益を考慮して相続分を計算する必要はありません。
故人が遺言書で特別受益を考慮しないという意思表示をしている場合は特別受益を考慮して相続分を計算する必要はありません。例えば、故人が経営していた会社を長男に継承するために事業資金を贈与していた場合、「本遺言書の内容は長男に贈与した1,000万円の特別受益を考慮して定めたものである」といった内容を記載すると良いでしょう。
特別受益にあたる遺贈や贈与があったとしても、他の相続人が主張しなければ特別受益を考慮して相続分を計算する必要はありません。遺贈の場合は遺言書がありますので特別受益を立証しやすいのですが、贈与の場合は立証するのが難しいケースもあります。
故人が過去に贈与をおこなっていた場合、特別受益とみなすことができる可能性がありますが、何年前の贈与までさかのぼることができるのでしょうか?実は、特別受益には時効がありません。何年前の贈与であっても特別受益に該当する贈与があった場合は特別受益とみなして相続分を計算することができます。ただし、預貯金口座の履歴を洗い出すなど、特別受益にあたる贈与があったことを立証する必要があるでしょう。
遺言書の作成は弁護士・司法書士・行政書士・税理士など様々な専門家が取り扱っていますが、どの専門家に相談すれば良いのでしょうか?相続税が発生する見込みが高いのであれば税理士に相談することをおすすめします。税理士以外の専門家は税金の専門家ではないため、どのように分けたら相続税が安くなるのかといった視点が漏れてしまうおそれがあります。
佐藤和基税理士事務所では遺産をどのように分けたら、いくら相続税が課税されるのかシミュレーションを作成することが可能です。遺言書を作成する際はシミュレーション結果をご参考にしていただき、相続税ができるだけ課税されないように遺産を分けることをお勧めします。なお、遺言書の作成や手続きを当事務所にお任せいただくことも可能です。佐藤和基税理士事務所の相続税対策サービスの詳細については下記ページをご覧ください。
相続税申告マニュアルとは、相続税申告の流れや必要書類について解説したマニュアルです。税理士選びのポイントや佐藤和基税理士事務所が選ばれる理由についても紹介していますので、ご参考にしていただきますと幸いです。
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